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人形劇で楽しく伝えたい、減災・防災~カンカン塔の見はり番~

子どもの頃に観た人形劇、皆さんは覚えているでしょうか?
表情豊かな人形たちに、つくりこまれた細かい仕掛けや、演者さんの多彩な声の表現。物語にどんどん引き込まれて、いつのまにか自分が主人公になったかのように夢中になってしまう…人形劇のもつ不思議な力は、さまざまなコンテンツが溢れる現代も変わらない普遍的なものかもしれません。

そんな人形劇、じつはTOAもオリジナルの物語をつくって全国各地で公演していること、ご存じでしたか?
テーマは“音と防災”。子ども達とまわりの大人の皆さんが一緒に楽しみながら“音と防災”に意識を向けるキッカケをつくれないか、という思いから生まれた独自の社会貢献活動です。でも、どうしてTOAが人形劇を公演しているのでしょうか?今回は演者の皆さんにもお話を伺いながら、オリジナルの物語に込めた想いを紐解いてみます。

~TOA 音の防災シアター「カンカン塔の見はり番とは」~
2016年に始動した“音と防災”をテーマとした創作人形劇。全国各地の教育施設(幼稚園、保育園、小学校)や地域の防災施設、防災イベントなどに赴いて公演活動を行い、“危険をしらせる音”を意識して聴くことの重要性を訴えている。2022年度までに全国各地で41回公演を行い、累計約4,000人が観覧。NPO法人「子どもとアーティストの出会い」と連携し企画制作を行う。

(あらすじ)
どうぶつ村の子うさぎ、ベルくんのおとうさんは、村の安全を見守る“カンカン塔”の見はり番。ある日、おとうさんに代わってベルくんがカンカン塔のお留守番をすることに。「火事を見つけたら鐘をカンカン、夕立雲がのぼったら太鼓をドンドンと鳴らすんだよね」。ところが、数十年ぶりにオオカミたちが襲ってきたからさあ大変!「こんなときは…シンバルだ!」ところが村人たちは「何の音?」と首をかしげるばかり。みんなシンバルが何をしらせる音か忘れてしまったのです。どうするベルくん?!

※音と一緒に楽しむ「カンカン塔の見はり番」Web絵本はこちら↓


人形劇だからこそ伝わる“聴く力”の大切さ

長谷川さん:“音”と“防災”、この2つの言葉がすぐに結び付かない方もいるんじゃないかと思うのですが、防災を考える上で音はとても重要です。私たちの暮らしの中には“危険をしらせる音”がたくさんあります。火事や津波の警報、自動車のクラクション、踏切の遮断機の警報…普段意識していないだけで、さまざまな音に囲まれて暮らしています。でもたくさんの音が溢れる中で、その音がどんな危険をしらせているのか、その音が聴こえてきたらどんな行動をしたらよいのか、忘れがちではないかと思うのです。
大切なのは、普段と違う音が聴こえてきたときに「何をしらせる音?」と耳を傾け「自分はどうする?」と考え、行動すること。その力をTOAは“聴く力”と呼んでいます。
子ども達に“聴く力”の大切さを伝えたい。そして災害の被害を少しでも減らす「減災」につなげたい。その想いを形にしたのが、「カンカン塔の見はり番」なんです。

たくさん:当初TOAさんから“音と防災”をテーマにした人形劇をつくりたいとお話をいただいたとき、人形劇ととても親和性の高いテーマだと感じました。
とはいえ現実世界のリアルなお話だと、災害を経験した子ども達にまた怖い思いをさせてしまうかもしれない。そこでオリジナルのお話をつくるにあたって、“災害=オオカミの襲来”として、そこから物語を展開していきました。動物たちが暮らす村で火事が起きたり砂嵐が起きたり、フィクションの世界で起こる災害を現実と少し離れたところから観てもらうことで、子ども達に物語として楽しみながらも“音と防災”を身近に感じてもらえるように想いを込めました。

アキさん:この物語を初めて見たとき、すごく良くできたお話だなと感動しました。TOAさんの想いと、子ども達へのメッセージが絶妙に織り交ぜられて、人形劇の世界感ができているんです。そして実際に自分が演じる中で大きなポイントだなと感じたのは、楽器を使って“聴く”ことの大切さを伝えること。もし本物のサイレンを使うと恐怖感を抱くお子さんもいらっしゃるかもしれませんが、楽器の音だからこそ冷静に“聴く”ことに集中できると思うんです。人形劇を観ながら“聴く”に集中することで、子ども達自身が物語に参加できる、そこも魅力の一つだと感じています。

浜崎さん:人形劇って、観ている子ども達が人形に自分自身を投影することができるんですよね。だからこそ、災害をテーマにした物語であってもワンクッション置いて、柔らかくとらえることができる。子ども達が楽しみながら防災について考えることができるのは、人形劇というコンテンツならではだと思っています。

音は、危険から遠ざかるための“最初の一歩”

たくさん:2016年にスタートした当初は、東日本大震災の記憶も新しく、震災を経験した子ども達も多くいた中で子ども達に“防災”をどう伝えたらいいのか、と悩んだこともありました。でも実際に演じながら、だんだんと自分の中にもこの物語の芯となるメッセージが腑に落ちてきたんです。
それは「音は最初の一歩なんだ」ということ。人の話を聴く、危険のおしらせを聴く、それがすべての防災のスタートなんだと腑に落ちたんです。その芯が僕の中で出来てからは劇の中での子ども達とのコミュニケーションもぶれにくくなりました。
防災を学ぶ専門的な施設だと、地震体験などもできますよね。そうした、ある意味心をキュっと締め付けるような“怖い”“恐ろしい”“目をそむけたくなる”という体験も、子ども達の学びの一つだと思うんです。でもそれだけではなく、好奇心を原動力にした体験も子ども達にとっては大きな学びです。登場人物に感情移入してもらいながら“防災”について興味を持つキッカケを提供できる。それは人形劇ならではの強みであり、公演を通して意識して伝えてきたところでもあります。

長谷川さん:いつどこでどんな災害が起きるかわからないからこそ、できるだけたくさんの場所で“音が最初の一歩になる”ことを伝えたいですよね。
TOAは日本全国、北海道から沖縄まで営業所があるのですが、じつは各地の営業所も一緒になって「カンカン塔の見はり番」の公演をサポートしています。営業活動とはまったく違う、社会貢献活動を通じて地域社会と関わりを持つことで、“TOAは機器ではなく音をお届けしているんだ”という意識を広く従業員に持ってもらうキッカケにもなっているんです。実際に公演に参加した従業員からは「自分の家族にも観せたい!」という声がとても多くて、従業員とその家族向けの公演を開催した際には大盛況でした!
従業員が自ら「この物語をもっと知ってほしい!」とご自身のお子さんが通われている保育園や学校に広めてくださったりもしています。そうして、カンカン塔の輪が広がっていく様子を見て、改めてこの物語の魅力と意義を感じています。

TOAの研究開発拠点ナレッジスクエアで開催された従業員向け公演の様子

浜崎さん:実際に災害が起きた時どうしたらいいか?というのは、知識だけでは本当は足りなくて、自分ごととして捉えることができて初めて災害時にも役立つ力になるんじゃないかと思います。本当は“防災”じゃなくて、“減災”の物語なんですよね。子ども達にわかりやすいようによく耳にする“ぼうさい”という言葉にしていますが、本当に伝えたいのは、“聴く力”で自分たちの身を守り、少しでも被害を減らす“減災”なんです。自分の身の周りで何が起きているのか情報を得て、自分で考えて行動することは、子ども達に身に着けて欲しい大切な“生きる力”でもあります。

全国の子ども達一人ひとりに、寄り添う物語にしたい

たくさん:始動から7年経って、今では震災を経験していない子ども達も増えてきましたよね。災害をどこか伝説のように捉えてしまう子ども達もいる中で、あらためてこの物語ができることがあるんじゃないかと思っています。
人形劇の最後には、主人公のベル君とお父さんが物語を振り返って“耳を澄ませて聴いてみよう”とお話するシーンがあります。例えば、そのシーンで地域に合わせた防災の話も織り交ぜていくと、災害を体験したことのない子ども達にももっと伝えられるものがあるかもしれないですね。

アキさん:クイズ形式みたいにしてもいいかもしれませんね!公演中は子ども達が口々にベル君に話しかけてくれるのですが、劇の進行上なかなかすべてに答えることができないのが残念で。クイズのやり取りの中で、子ども達が思う存分ベル君と話せる場面があったら、もっと音と防災への関心と理解が深まるように思います。

浜崎さん:いいですね!その地域によって子ども達の反応も全然違いますし、もっと子ども達や周りの大人にも寄り添った内容にできるかもしれません。
人と人との交流がつくりだす物語でもあるので、日本全国いろんなところに行ってたくさんの子ども達に会いに行きたいですね。そして1回行った場所にも、もう1度行ってみたいなと思っています。前回観に来られたご家族がまた来てくださったこともあって「2回観たけどやっぱりおもしろかった!」という声もいただきました。お子さんの成長とともに受け取り方が変化することもあると思います。

たくさん:それぞれの世代、それぞれの立場で受け止め方が違いますし、その違いも同じ空間で楽しめるのがこの物語の魅力です。そして観て終わりではなくて、周りの大人がさらに防災について話してあげたり、子ども達が自ら追及していけるような、そんな物語の先に続く学びのキッカケを提供できたらと思っています。自分の感じ方、お友達の感じ方、その違いも楽しんでもらえたら嬉しいです。音と防災の人形劇ってどんなもの?という好奇心を原動力に、お子さんも大人の皆さんも、ぜひ一度ご覧ください!

公演のお申込みはこちらから↓

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