発声と音のプロ直伝!相手に伝わる話し方
高校や大学、あるいは社会人となると、プレゼンや会議、研究発表や就職活動など「人前で自分の意見や資料の意図を話す」機会が増えてきます。
しかし、中には「緊張してしまってうまく話せない」「自分の言葉が伝わっているかわからない」といったお悩みを持つ方も多いのでは?
今回の「オトノハナシ」は、そんな皆さんに「相手に伝わる話し方」のコツをお届けします。
発声のプロが語る、伝わる・伝える話し方
初めにお話を伺ったのは、声を使って活躍する「話し方」のプロ。大阪を中心に、アナウンサー、ナレーター、イベントMCとして活躍する、藤本幸利さんと、小谷渉子さんです。お二人はTOAが開発している非常用放送設備の「火事です!」のあの声もご担当されているんです。
緊張するのは当たり前。大切なのは緊張している自分を自覚すること
― 大勢の前では、緊張してうまく話せない、話がまとまらないという場合、プロの方はどのように対処しているんでしょうか。
藤本「僕はすごく緊張するタイプなんで、失敗したことも数多く…。だからこそ言えることがあって、それは本当に言葉が伝わるのは、緊張せず自然体で語り掛けているとき時が多いってことなんです。」
小谷「人前に立って話をする時は誰だって緊張すると思いますよ。大切なのはその時の自分を自覚すること。緊張したまま焦って話すと、相手に“この人の話し方は信用できないな”という印象を与えてしまいがちです。それでも自分が“今自分は緊張しているんだ”と理解していれば、言葉をゆっくりと発音したり、一呼吸置いたりといった対処が考えられますからね。
理想とするのは、友人と好きなことを語り合うような雰囲気。私の場合は、緊張を自覚したら、“一呼吸して手を下に下げる”といったような自分なりの力の抜き方を用意しています。皆さんも、これをやったら落ち着けるという手段を持つのもいいかもしれませんね。」
相手に伝えるためのテクニック
―お二人には、相手に伝えるために行っているテクニックはありますか?
小谷「急に入ってきたニュース原稿など、内容を理解する時間が十分にないときは、原稿を一読してどこが重要なポイントであるかを把握します。その上で、大切な言葉や大切なフレーズの前には、一拍休憩を置き、できるだけゆっくり、はっきりした声とスピードで読み上げます。自信がないと、声が小さかったり、大きくなりすぎたりすることがありますよね。それをカバーしてくれるのが声の抑揚やリズムの付け方なんです。」
藤本「僕は1時間近いMCなどを行うことが多いですね。その場合は、先に原稿がありますからしっかりと事前に読み込みます。ただ、原稿を一言一句違わず丸暗記するのではなく、ストーリーをつけて覚えて、その流れを意識しながら話すんです。それでも本番では100覚えたうちの50程度の内容しか伝えられません。」
小谷「言葉を文章として相手に伝えるには私のようなテクニック、自分の考えや企画の意図などを相手に理解してもらうためには藤本さんのような事前準備が必要なんです。皆さんがプレゼンなどをする場合は、事前に資料を読み込んで準備した上で、さらに効果的だと思えるポイントで、言葉に緩急をつけてみてください。」
プロが重視するマイクの使い方
―大勢の前で話をする場合、お二人もマイクを使われると思うのですが、効果的にマイクを使って話すコツはありますか?
藤本「息の音が入ると耳障りですから、マイクに息がかからないように気をつけています。特に破裂音を含む言葉の時はマイクを遠ざけていますね。それから、舞台に立つ時はあまり歩き回らないのも大切。話に夢中になってスピーカーの前に立ってしまい、ハウリングが起きてしまうと、お客様や音響さんに迷惑をかけてしまいますから。」
小谷「私はマイクの持ち方ですね。大きい声を出す時はちょっと口から離すようにマイクを移動させます。また、声を出す時は常にマイクのどこに声を当てるかを意識していますね。集音するグリルに真っ直ぐ声を通していくようなイメージです。」
音響のプロが語る、正しいマイクの選び方&扱い方
お二人からマイクの使い方のお話を聞いたところで、もう一人のプロのお話をご紹介。
株式会社ジーベックの山東弘樹さんは、これまで球場でのインタビューや応援のための選曲、神戸で行われるジャズフェスティバルの音響等を担当する音のプロフェッショナルです。
状況に合わせたマイクと部屋の選び方
山東「一つの会場で観客の前に立ってお話をするのであれば、インタビューやカラオケボックスで使われることが多い、手持ちのダイナミックマイクが使いやすいと思います。ただし、オンライン会議をする場合はイヤホンマイクが一般的です。ヘッドセットのようにマイクと口元との距離が一定になっているものがベストですが、イヤホンのケーブルにマイクが付いているタイプをご使用されている場合は、口元との距離を一定に保てるように手に持って使うと良いですね。」
―オンライン会議やプレゼンテーションをする部屋にも工夫は必要ですか?
山東「そうですね。話をする場所が広い空間である場合、それほど工夫は必要ないかもしれません。ただしかなり狭いという場合は、部屋の中で出された音が床や壁・天井などに反射して、マイクに集音される場合があります。こういった場合は、カーテンを閉めたり、絨毯を敷いたりして、床や壁が音を吸収できるよう配慮してみてください。」
声をはっきり伝えるマイクの扱い方&身振りの仕方
― 人前で喋る場合などは、ダイナミックマイクを使用することが多いということですが、このダイナミックマイクには「正しい使い方」があるんですか?
山東「実はダイナミックマイクは使い方次第で、かなり音の伝わり方が変わります。最も大切なのは距離。マイクとの距離が近すぎると、声を構成する音の低域部分を拾ってしまい、拡声した時にくぐもって聴こえます。反対にマイクとの距離が遠すぎると、低域部分を拾いにくくなるため、薄く軽い音になりがちです。声の小さい方や声の高い女性は、マイクをやや近めに。男性や声の大きい方はやや遠目にマイクを持つと良いでしょう。目安は自分の握り拳ひとつ分くらいですね。」
山東「それから、マイクの持ち方も重要です。実はマイクは金網(グリル)の上部と下部の両方で音を集音しています。グリル上部で集音した音には話者の声だけでなく、観客の声やスピーカーから出る話者自身の声など、さまざまな周辺音が含まれています。そこでグリル下部から周辺音を集音し、相殺することで、話者の声だけを拡声しているのです。
そのため、グリルの下部を握ると周辺音を相殺することが出来なくなり、聴き取りにくい音声となるばかりか、ハウリングが発生する危険性も高まってしまいます。
また、よく胸の上あたりでマイクを縦に持つ方がいますが、あまり良い方法ではありません。このマイクには指向性があるので、声を効果的に集音するためには、声の出る方向の直線上にマイクを持つように意識しましょう。プレゼンでモニターや原稿を読む場合も体だけでなく、マイクごと上半身を動かして適切なマイクの位置・距離をキープしてくださいね。」
― ダイナミックマイクを使用する際にやってはいけないことはありますか?
山東「マイクは繊細な機械です。特にグリルの中にあるダイアフラム(音を電気信号に変換する部分)は衝撃によって破損しやすいため、グリル部分を叩いたりすると最悪の場合故障してしまう場合があります。声が出ているか確認する際は、実際にマイクに向けて声を出してください。」
マイクの使い方と、話し方のテクニック。双方が噛み合うことで、相手に伝わる話し方が実現するのです。ただし、それが全てではないようです。藤本さん、小谷さんは、相手に伝わる話の極意をこう語ってくれました。
相手に伝わる話し方の極意は、相手への思いやり
―相手に伝わる話し方を自然に身につけるためにはどうしたら良いのでしょうか。
藤本「僕は相手への思いやりを持つことだと思います。いろいろな方と会って、話をすることで“人間を理解すること”を続けていれば、大勢の人の前に立っても、自分が誰に言葉を伝えたいかを想定して話せるようになってきます。もう一つは“話すこと”の継続。ぶっつけ本番で良い話し方ができるわけではないと思いますから、常に本番のつもりで練習を重ねていくと、その結果として人に伝わる話し方ができるのではないでしょうか。成功するプレゼンテーション、成功するアナウンスは、今までの練習に対するご褒美なんですよ。」
小谷「私も相手を知ることが大切だと思いますね。お子さんに話しかける時と、ビジネスパーソンと会話する時の言葉の選び方は当然異なりますし、自分が企画や資料・原稿の内容を伝えたいと思ったら、まずどんな相手にその言葉を伝えたいかを考えますよね。藤本さんのいう通り、言葉は相手に届けたいと思うからこそ伝わるものだと私も思います。」
自分なりの話し方のコツを掴んで、話し上手&伝え上手を目指そう
マイクの使い方や、初めての文章を読む時のコツなど、すぐに使えそうなものから、相手へ思いを伝えるための心構えまで、多彩に伺うことができた今回の「オトノハナシ」。
さっそく明日使ってみようと思える知識はありましたか?