TOAの音声明瞭化技術に迫る!
皆さんは、街中の雑踏や年齢による聴力の衰えによって、「音声が聞こえにくい」と感じたことはありませんか?
そんな問題を解決するためにTOAが開発したのが「音声明瞭化技術」です。この技術のポイントは、雑音に埋もれがちな高音を強調することで、音の輪郭をはっきりとさせること。これによって、より聴き取りやすい音声を実現しています。では、その音声明瞭化の仕組みや私たちの周りでどのようにこの技術が生かされているのか、誕生当時の開発担当・中家さんと営業担当・土橋さんにお話を伺いました。
音声明瞭化技術の誕生
中家:私がTOAに入社した頃、騒音を別の音で打ち消す“消音”の研究が進んでいて、私もこれに携わっていました。その当時、「難聴者向けのスピーカー」が巷で話題になりはじめたんです。しかし難聴と一口に言ってもその種類はさまざまですから、スピーカー一台でどんな難聴者でも聴こえやすくなる音が出せるとは思えませんでした。私の大学時代の研究テーマが、難聴者に対する補聴器の研究だったこともあり、「しっかりデータを取ってみよう、少なくとも高齢者が抱える音の聴きにくさを解消できるスピーカーはできるかもしれない」と考えました。
そこで70歳以上の高齢者の方々にご協力いただき、高音域を強調する音を流すことで、聴き取りやすさや音声の認識が向上することを確認したんです。
その次のフェーズとして公共空間での実証実験を始めようと思った時に、土橋さんが率先して手を挙げてくれました。
音声明瞭化技術を体感してみてください
TOAの音声明瞭化技術が駅での聴こえやすさを向上!
土橋:中家さんの研究内容を聞いた時に、「これは役に立つ!」と感じたんです。当時、私も「電車の音がうるさくて駅のアナウンスは聴こえづらい」と感じていたところでしたし、たまたま都内の鉄道会社から、「駅改札のアナウンスが聴こえづらいからスピーカーを増設したい」という依頼が来ていたので、この技術を活かすことができればスピーカーを増やす以上の効果を出せるだろうと思って実地検証に踏み切りました。
中家さんたちと一緒に、この駅の音響や騒音の状況を測定調査し、その空間に流れる音の高音域をどのくらい強調すれば効果があるかといった音づくりを行ったうえでスピーカーを設置しました。
中家:実際の駅でテストできたことで、貴重なデータや意見を収集することができました。「聴き取りにくかったアナウンスが聴き取りやすくなった」という声が寄せられたり、「駅改札窓口への問い合わせ件数が減った」という意見も得られたんです。
土橋:一方で、現場で使用されている既存のマイクやスピーカーでは、理想とする拡声に対応しきれないことがあるという課題も見えてきました。この実証実験以来、東京都内のみならず、関西の主要な駅舎や大型商業施設などでも音声明瞭化の技術は導入が進んでいます。ただ、こうした取り組みがさらに広がっていくためには、それぞれの環境に応じた音づくりはもちろん、その音質を実現することが出来る機器という、両面でのトータルな音響空間設計が必要になってくるでしょうね。
音声明瞭化の未来
中家:今後も音声明瞭化技術を研磨し続け、社会のあらゆる場所に広めていきたいです。その上で私たちが考えているのは、「音声明瞭化に関する指標や認証制度を作る」ことです。音の聴こえ方というのは主観的なものですし、何より目に見えないものです。それならば聴き取りやすい音や状況を数値化し、指針として定めることで「聴こえやすい音響空間設計」とはどのようなものかを明確に示したいと感じています。これができれば、世間の音声明瞭化に関する理解は進むでしょうし、もっと言えばTOA以外の企業も音声明瞭化に取り組んでいく風潮が出来上がるかもしれません。
土橋:また一定の基準を作った上で、市場によってどんな音づくりが適しているかガイドラインにバリエーションを持たせることができれば、各市場への浸透も進んでいくでしょう。
現在は、「音声明瞭化」という言葉が曖昧なまま一人歩きして、なんだかすごいこと、なんでもできるようなことに聞こえてしまいます。しかし、実際はまだまだ研究・改良・進化の余地があり、拡声機器がもつ「聴こえやすくする」という永遠の課題を追求し続ける技術なんです。
私たちメーカーが「音声明瞭化とは何か」を本当に理解し、機器や音づくりを考える上で「聴き取りやすさ」に当たり前のようにこだわり続ける。その取り組みの積み重ねが「音が聴こえにくいことが普通ではなく、よく聴こえるのが当然だ」という認識として世間に広がっていけば、今よりもっと安全で快適な社会が実現するかもしれませんね。