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異文化に根付き、花開いたTOAの音づくり

イスラム教において1日5回の礼拝は欠かすことができない生活の一部。
決められた時間に誰もが一斉に行う礼拝を支えるために、TOAの技術が生かされています。今回は、イスラム教の礼拝堂であるモスクの内外で使用される音響製品にまつわるお話。日本から遠く離れた海外で、日々の暮らしにしっかりと根付いた音づくりに奔走する人々のについてお伝えします。

みなさんは「アザーン」を知っていますか?

エジプトやサウジアラビア、アジアであればインドネシアやマレーシアを旅したことがある人は「あぁ、あれか」とピンとくるかもしれませんね。
これらイスラム教の国では、人々は1日に5回(宗派によっては3回)、彼らにとっての聖地・メッカに向かって礼拝(サラート)を行います。この礼拝の始まる前に町中に音声でお祈りを呼びかけます。この呼びかけがアザーンで、イスラム教国の人々にとって、祈りの時を告げる重要な役割を担っています。
中でも世界最多のイスラム教徒を有するインドネシアでは、国中に100万箇所近いイスラム教の礼拝堂「モスク」があるそう。コンビニよりもずっと多く、街の至る所にあるモスクのスピーカーから、アザーンが流れだす情景はまさに壮観のひと言。

このインドネシアのアザーンで大活躍するスピーカーの約9割がTOAの製品なのです。
さらにこの屋外用スピーカー以外にも、モスクの中の音響設備としてTOAの製品が至る所に使用されているのです。しかし、一体なぜ?
その人気の秘訣をTOAの現地スタッフに伺いました。

意外にも古い絆が!
インドネシアのスピーカーの代名詞となったTOA

スタッフ:TOAがインドネシアに進出したのは今から半世紀近くも前。それ以前からスピーカー製品を提供していたのですが、当時は輸出品の関税が高額で、日常必需品であるのになかなか手が出せない価格となっていました。そこで立ち上がったのが現地での生産拠点の立ち上げ計画です。
ただし今でこそ、発展した大都市も多いインドネシアですが、当時はまだ開発途上の国で、その立ち上げにはさまざまな困難があったと聞いています。

そんな厳しい状況でもTOAの社員は「良い製品を安く提供しよう」と、この国で現地の販売店や開発者たちと絆を結びながら事業を進めていったんですよ。
今は、現在のインドネシアでの製品シェアにその努力の結果が見て取れます。インドネシアでは、モスクの外につけるスピーカーの実に9割がTOA製なんですよ!

これだけあらゆる場所でTOA製品が広がった結果、インドネシアでは「ホーンスピーカー」がTOAの旧社名である「トーア」という名前で根付いてしまったんです。
街ゆく人にスピーカーを見せれば「これはトーアだよ」と言ってくれますし、メッセージアプリのテキストスペースに「TOA」と入力すれば、スピーカーの絵文字が表示されますよ。


インドネシア人は重低音好き?
製品を開発・販売する上で知った国民性

スタッフ:インドネシアにすっかり根付いたTOAのホーンスピーカーですが、それ以外にモスク内でも説法の音を出すためのマイクや、音量調節するミキサー、音を増幅するアンプ、スピーカーといったものまでシェアを広げ続けています。
私たちも現地の人々と一緒に、営業活動や研究開発に打ち込んでいますが、やはりそこは海外。言葉や国民性による認識の違いによる、課題もあります。

スタッフ:1日5回放送されるアザーンですが、これは録音放送ではなく、必ず肉声で呼びかけなければなりません。そうするとTOAは、「音声」を適切に拡声するのであれば、「人の声に近い中音域に重みを持たせた音が綺麗に出るスピーカーが良いな」と考えるのですが、インドネシアの人はそうではありません。

私たちに寄せられるスピーカーの要望で最も多いのは、「重低音がよく出るもの」というもの。
インドネシアの人々は、重低音が響く音楽が大好きなんです。インドネシアのどの地域に行ってもこの傾向は一緒。流行の歌も民族音楽も同じように、重低音がズシンと体にあたってくるくらいの調整をして大ボリュームで流すんです。

もちろん、音楽に使うスピーカーと人の話を聴きやすく流すためのスピーカーでは、求められるものは違います。その用途に合わせて適材適所の製品を提供するのが私たちの役割ですから、現地の人々と一緒に何度も音を聴き比べながら、丁寧に説明を重ねていくんです。

でも、音というのは感性によって理解するところも多いですし、音の印象を表す言葉なんかも一人一人違うわけで…、なかなかすんなりと理解してもらうのは難しいんです。
それでも粘って開発した結果、「いいじゃないか」と、現地の方々に共感してもらった時はたまらなく嬉しくなりますね。


モスクの内外で活躍するTOA製品

スタッフ:こうして数多くのTOA製品がインドネシアで開発され、販売されてきているのですが、その中でも、特にご好評いただいているのが、2021年に発売した首掛け型マイクです。

首掛け型マイクZM-362


スタッフ:これはモスクの中での礼拝時にイマーム(指導者)の皆さんが使用するマイクで、首にかけるようにして装着します。
この製品が販売される前には、タイピン型の胸元に装着するマイクを販売していました。しかし、礼拝中はイマームの方々も身を屈めひざまづきながら拝むことが多く、胸元のマイクは衣擦れのガサガサという音を拾ってしまうほか、姿勢を変えるたびに音が変化してしまうという難点がありました。

そんな時に、アイデアをくれたのは毎日お祈りをしているイスラム教徒の方でした。

そこで、タイピンではなく首にかけるマイクを開発。その上で、何度も繰り返し姿勢を変えてもずれない装着感と、強度を追求して今の形が出来上がりました。

ただし、これで完成とは思っていません。本当は、体にマイクを身に着けずとも拡声できるのが、あるべき姿であると思うんです。使い手が使いやすく、聴き手が聴き取り易い商品(音)の追求は終わりません。


ホーンスピーカーZH-5050


スタッフ:続いて紹介するのが、新しく開発したホーンスピーカー。モスクには四隅にミナレットと呼ばれる尖塔が立っていて、スピーカーはこの上に設置されるんですが、インドネシアの方々は、なんと手で持って塔を登るんですよ。これが非常に重労働で危険なんです。

スピーカーは毎日使われるものですし、強烈な日差しと雨や風にも晒されるので、いかに耐久性が高いTOAのスピーカーであってもいずれは劣化が起こってきます。
そうなると、修理や交換のため再び塔を登り降りする必要が生じてしまいます。
この製品が過去のものと比べて強化改善しているのはこの点で、「劣化・故障を最小限にすることで、修理交換のために塔を登る回数を減らす」ことを目指しました。
TOA社内での検証はもちろん、現地でも徹底的な試験を重ねた結果、従来品と比べて、飛躍的に耐久性が高いものになりました。

ミュージックホーンスピーカーZS-760


スタッフ:インドネシアに広く、受け入れられているTOA製品ですが、私たちは現状の性能に納得しているわけではなく、もっとインドネシアの人々に求められる商品(音)があるのではないかと思い続けています。

このミュージックホーンスピーカーは屋外の放送だけでなく、音楽再生にも十分耐えうる音づくりを目指して開発された製品です。
BGMを再生する際はより迫力あるサウンドを、人の声をアナウンスする際はよりクリアで聴こえやすい音を同じスピーカーから出せるように設計しています。同時に、見た目に関してもホーンスピーカーとは一線を画す良い意味でこれまでのイメージを脱却するようなデザインを目指しました。

もちろん、屋外でハードに使われるものですから、耐久性だって重視しています。
高耐久・防塵・防滴性能を目指す設計の練り直しに加え、長時間大音量での音声再生や、直接水をスピーカーに掛け続けるといった試験を実施しました。

研究開発は大変でしたが、その努力はしっかりと実を結びました。
なんとインドネシアモスクの中でも最高峰の「イスティクラルモスク」に導入していただけたんです。さらに、このモスクでの使用を見た他のモスク関係者からも納入の依頼が来るようになりました。
しかも、今では日本も含め世界中の国々で続々と販売が開始され始めました。
インドネシアの人々のために「いい音をつくりたい」。その一心で出来上がった製品は、その音質だけでなく耐久性という面でも、世界のあらゆるシーンで十分にそのポテンシャルを発揮できると思っています。

これからも現地と共に、手を携えて開発は続く

スタッフ:いろいろな製品を送り出してきたTOAですが、製品開発以外にも克服すべき課題を抱えているんです。それが、「製品を正しく使っていただくこと」。
どんなに良い製品でも使い方が悪ければ故障してしまいますし、使用する方がその原因をわかっていなければ、製品の本来の音が出せません。
私たちは現在、インドネシアのYoutuberさんに製品を提供し、その使い方の説明や使い心地を評価してもらう動画の配信をお願いしています。さらに、月に1回ほど製品の使い方に関する講習会を開いて、正しい使用方法を伝えています。
現在ではこの講習会も500回を重ね、次第に受講者も多くなっていきました
中には、何度も繰り返しご参加いただくイマームの方もいて、すっかり顔馴染みになっていますよ。

TOAは半世紀近く、この国の人たちと共に、音づくりの試行錯誤を続けてきました。それでもまだ、「インドネシアの人が本当に求めている音を、理解した」とは言えません。
私たちにできるのは、インドネシアの人々に寄り添ってベストな音を目指していくことだけ。メーカーのつくった音を押し付けるのではなく、耳を傾け協力していくその先に、本当に心地よい音があるんだと思いますね。
 

― 世界に拠点をもつTOA。その理想は、全ての地域の人に寄り添い、その土地、その環境に過ごす人々に心地よい音をつくること。
皆さんも、海外に旅行に行くことがあったらスピーカーにTOAの文字を探してみてください。
そこから流れる音を聴けば、その国に住む人の思いや価値観に触れることができるかもしれませんよ。―



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