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音で子供たちの学びをサポート -より良い教育環境をつくるTOA-

教室で過ごす時間のうち、その多くは「聴く」時間。先生の話す声やデジタル教材の音源、校内放送など、子供たちは学校生活の中で多くの音を聴いています。
特に授業中の音は、子供たちが学びを深め、将来に役立つ知識を得たり、必要なスキルを身につける上で重要な役割を持っています。この “授業中の音の聴き取りやすさ” が子供たちの学びに深く影響することを、皆さんはご存じでしたか?
今回のオトノハナシでは、子供たちが学習する教育環境を音でより良くしようと目指す、TOAの取り組みについてお話しします。

【今回お話を伺ったTOAメンバー】

教室に存在する、見えないオトのモンダイ

皆さんは小中学校、あるいは高校時代に教室内で「音が聴こえにくい」と感じたことはありませんか?例えば、英語のリスニング問題が後ろや端の席では聴こえにくかったり、試験に出るような重要なポイントを解説している先生の声がよく聴こえなくて困ったりした、という経験はないでしょうか。
音は情報を伝達し、コミュニケーションをとる上で重要なもの。
もし授業中に必要な音が聴こえていなければ、情報がきちんと届かず、その結果として学習の効率が下がり、学びに格差が生まれてしまうことも考えられます。
音×学びの研究を進めるTOAの研究者、エバンズさんはこう語ります。

エバンズさん「実は子供たちの聴力は大人と比べると未発達です。特に “雑音の中で自分の聴き取りたい音を選択して聴き取る能力” は、個人差はあるものの、思春期頃にようやく完成すると言われています。こうした背景から、同じ教室にいる大人が自分の耳で感じる以上に、子供たちにとっては聴き取りにくい環境である可能性が考えられるのです。授業中の先生の声が聴き取りづらいと、子供たちは聴く行為そのものにエネルギーを費やしてしまい、学びを深めるために必要なエネルギーが不足する可能性も指摘されています。」

さらに、近年小学校においても必修科目となった、外国語の授業の際には、音の聴き取りやすさがもたらす影響がより顕著になるといいます。

エバンズさん「母国語でない言語を聴き取るためには、普段以上に大きくクリアに聴こえる必要があります。もしも外国語教材の音声が雑音交じりだったり、先生の声が聴き取りづらかったりすると、細かな発音まで聴き取り、言葉を習得することが困難になってしまうこともあります。その一方で、大き過ぎる音は子供たちの聴力に悪影響を与えてしまいます。教育現場にこそ、適切な音量かつ聴き取りやすい音が必要なのです。」

学校内で使用される音響機器を長らく開発してきたTOAですが、マーケティング担当の杉本さんも「こうした教室における音の問題は、その “気づかれにくさ” からなかなか表に現れてこなかった」といいます。

杉本さん「音のきこえの良し悪しに関しては、子供たち自身も先生方も認識しづらく、対応が行き届いていないことも多いと感じています。音環境の改善による効果も、説明だけでは伝わりにくいこともあり、実際に聴き比べてみて、初めて体験するきこえの違いに驚かれる事も少なくありません。
昨今、日本でも重視されつつあるインクルーシブ教育の観点では、多様な事情を抱える子供たちが、可能な限り同じ教室で学べる環境づくりが求められています。聴覚情報処理障害(APD:Auditory Processing Disorder)(※)もその一例ですが、世間での認知がまだ十分とは言えません。また学齢期によくみられる中耳炎にかかってしまった場合も、症状にもよりますが、一時的に耳が聴こえづらくなることが分かっています。先生方は伝えているつもりなのに、子供たちにはきちんと伝わっていない。そんな状況を音で変えることができないかと、社内でも議論が始まりました。」

※聴覚情報処理障害(APD:Auditory Processing Disorder):健康診断での簡易な聴力検査では正常値を示すものの、教室のような騒がしい環境における音声コミュニケーションでは、音(音声)は聞こえているが話の内容を聴き取れない、認識できない、という症状があることが報告されています。


どこに居ても “必要な音が適切に聴こえる環境” を

目指したのは “教室のどこに居ても、必要な音が適切に聴こえる環境を整え、子供たちの学びをサポートする” こと。
教壇から離れた席に座っていても、教材の音声や先生の声がハッキリと聴こえるようにするために、教室内の音響設計はどうあるべきか。実際の教育現場の協力も得ながら、検証が始まりました。教室内の残響や騒音レベルの状況を把握し、最適な機能をもつ音響機器の選定や設置位置の検討に加えて、より “聴き取りやすい音” に調整するための音響信号処理も欠かせません。試行錯誤を重ね、2022年秋より国内の複数の小学校で実証研究がスタートしました。その一つの舞台となっているのが、埼玉県内の公立小学校です。

これは、埼玉県立総合教育センターさまが立ち上げた「次世代の学び創造プロジェクト(通称:まなプロ)」の一環。この “まなプロ” に参画するTOAは、埼玉県立総合教育センターさまと協働で、教育現場の課題解決に向けた音の研究・開発を進めています。

実際の学校教室で音響デモンストレーションを行ったときの事を振り返って、TOAのさいたま営業所メンバーは語ります。

根本さん「普段は地声で授業をされている先生方に、実際にマイクやスピーカーを使っていただくと、”全然違う!” と驚きの声をいただきました。最近では、感染症対策のために分散登校が実施され、クラスの半分だけリモート授業が行われるケースもありました。授業中の音が実は聴こえにくいという課題に気付き、関心を寄せてくださる先生方も増えています。」

池谷さん「とくに、コロナ禍以降は先生がマスクを着用して授業をするのが当たり前になったことで、以前より授業中に声を張り上げる必要が出てきました。教室内の音を聴き取りやすく改善できれば、子供たちの学びをサポートすることも、先生方の喉を守ることにもつながるはずです。」

実は海外の学校の教室では、音環境の整備が日本よりも進んでいることも多く、授業中にマイクやスピーカーといった音響機器の使用も特別なことではありません。イギリスやアメリカ、カナダなどでは、教室内の音環境整備に関する明確なガイドラインが設定されています。“子供たちへの音の聴こえやすさ” という観点はもちろん、先生の喉の負担を軽減するためにも音環境を整える必要があるという認識が広がっているのです。日本国内でも、私立学校や進学塾等で既に配慮されている教育現場もありますが、まだまだ一部に過ぎないのが現状です。

実証研究は始まったばかりで、今後さらなる検証や試行錯誤が必要ではありますが、未来の教育環境への思いをエバンズさんは語ります。

エバンズさん「教室のどこにいても、子供たち一人ひとりが公平に学びを深めることのできる教育環境を音でつくりたいんです。全国の学校にこの考えが広まるには、まだまだ時間がかかるかもしれません。でも、いつか “必要な音が適切に聴こえる教室” が当たり前になっていてほしい。そう願って、これからも活動を続けていきます。」

未来を担う子供たち一人ひとりが、質の高い教育を受けられる社会を目指して、TOAの音の探求はこれからも進んでいきます。

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