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音の聴こえる方向がわかるのはなぜ?

遠くから友人が呼ぶ声を聴いたり、近づいてくる自動車のエンジン音が聴こえたり、野山で鳥の囀りを耳にしたり…。
私たちは、音を聴く時に、その音の発生源を目で確認しなくとも、おおよそどちらの方向から、音が聴こえてくるか判断できます。

でも、どうして音を聴くだけで方向がわかるのでしょうか。
私たちは普段、それが当たり前だと思って、あまり気にすることはありませんが、その仕組みを知ることで、面白い音の世界の発見があるかもしれません。
そこで、今回は「人がなぜ音の方向を理解できるのか」ということについてお話ししていきます。

ごくごく当たり前な理由?

音の聴こえる方向が自然とわかる理由。
それは「音の聴こえる大きさ」と「音が左右の耳に届く時間の差」にあります。
「なんだ、そんなことか」と思われるかもしれませんが、そこには意外と複雑な仕組みがあるんです。


人間の耳と音の関係

例えば音が私たちの真正面から聴こえてきた場合、両耳と音の発生源の距離は等しくなるため、両耳が捉える音の大きさは同じ、また耳に音が届くタイミングも同時となります。

では、右斜めから音が聴こえてきたとしたらどうでしょう。この場合、音の発生源から耳までの距離は、右耳が近く、左耳が遠くなります。
音の大きさは空気中を伝わりながら次第に減衰するため、左耳に届く音は右耳に届く音より小さくなり、またその距離の差の分遅く感じられます。

今度は右真横から音が聴こえてきたと考えてみましょう。この場合も、音の発生源から耳までの距離は、右が近く、左が遠くなります。

ただしこの場合、右耳と左耳の間には、頭という障害物が挟み込まれます。このとき音は頭の形をなぞるように伝わっていくため、左耳に届く時の音は、右斜め方向から伝わる時よりも、より小さく、また遅くなります。
この左右の耳で違う音の大きさや、時間から方向や距離を割り出しているのです。


3次元で考えてみよう

ここでひとつ、疑問点が発生します。
それは、「音は左右だけでなく上からも下からも、聴こえてくる」という点。確かに真上や真下、真後ろから響く音の場合、両耳に届く音量も、時間も一緒になるはずです。それでも私たちは、木の上で囀る鳥の声や、橋の下に流れる川のせせらぎがどこから響いてくるのか聴き取ることができます。
こうした音を判断するのに役立っているのは、耳たぶや頭の形。
私たちの脳は、この頭や耳たぶの形によって微妙に異なる音の伝わり方を記憶しており、その経験から音源の方向を判断していると考えられます。


人間の耳にはニガテな音がある?

このように人間の耳は、私たちが思っている以上に感度の高いセンサーなのですが、そんな耳にも「方向の判断がつきづらい音」が存在します。
それは音の周波数が低い音。みなさんも上空を飛ぶ飛行機がどの位置から響いているかわからず、思わず見上げて探してみたり、スマートフォンがバイブ機能になっていて、震動音はだけは聴こえるものの探すのに苦労したり、といった経験はありませんか?
これらは音の波長が長いため、障害物に当たっても場合、その後ろに回り込むようにして広がる性質を持っているため、両耳に届く際の時差が少なくなってしまうのです。

この性質を逆手に取ったのが、自動車や電車の警笛(クラクション)。
警笛のような高い音は波長が短いので、障害物などで遮られやすく、その後ろには音が届きにくくなっています。こうした種類の音をあえて出すことで、耳が音の発生源に気付きやすい状況を作っているのです。


私たちの生活の中に応用されている音の聴こえ方

私たちの耳の性質を利用した、音響技術は警笛以外にも存在します。
例えば、映画館に行くと、スクリーンの中の登場人物に合わせて、音が右や左から聴こえてくるといった体験をすることができます。また、主人公の声が中央から聴こえ、背景の音は背後から聴こえるといったことも、ありますよね。

また、もっと身近なところでは「サラウンドヘッドホン」を使うことでも、こうした映画館のような音の体験ができます。

これはスピーカーやヘッドホンが、音楽や映画のシーンに合わせた音響を、音量・時間・伝わり方の特性ごとにシミュレートし、両耳で差をつけて響かせているから。これによって、私たちの耳や脳は、あたかも上下や左右に、音源があるように感じることができるのです。

私たちは普段、音がどこから聴こえてくるのか自然な形で認識していますが、その当たり前の裏側には、耳や脳、音の持つ振動などが複雑に絡み合った仕組みがあったのです。今度、遠くから響く音を耳にした際は一度目をつむって、その音の方向に意識を集中してみては? 自分のもつ鋭い感覚に、あらためて気づくことができるかもしれませんよ。