見出し画像

神戸ルミナリエ 音が導くその先へ

音が深みを与える「ルミナリエ」の輝き
兵庫県神戸市の冬の風物詩である「神戸ルミナリエ」。
神戸ルミナリエは、1995年1月に発生した阪神淡路大震災の犠牲者への鎮魂と追悼、そして復興への願いを込めて同年12月から開催されている催しで、幾度かの中止を経て2025年に30回目の開催を迎えます。
ルミナリエと言えば、荘厳なガレリア(回廊)をはじめとした無数の電飾が彩る光の芸術作品が醍醐味。しかし、もう一つ忘れてはならないのが「音」です。その音が、光の輝きをさらに特別なものに変えていることをご存じでしたか?今回のオトノハナシでは、神戸ルミナリエを訪れるのがこれまでよりもさらに楽しくなる「音」の秘密をご紹介します。


ルミナリエを支える音のプロフェッショナルたち

神戸ルミナリエの会場で音響を担当しているのは、TOAのグループ会社で、音響や映像のコンテンツ制作を得意とする株式会社ジーベック。今回は社長の川口さんと山東さんに、神戸ルミナリエにおける音づくりや会場の音響設計についてお話を伺いました。

川口さん:ジーベックが神戸ルミナリエに参加したのは、1996年の第2回からなんです。初回のルミナリエには、音による演出はなかったんですよ。この第1回の開催も美しく、見事なものだったそうですが、後にイベントをより深みのあるものにしようと声が上がり、神戸ルミナリエ組織委員会さんと連携する形で私たちの音づくりが始まりました。それ以来、現在に至るまでジーベックでは、音響制作や会場での機材設置、会期中の放送、緊急時のアナウンスなどを手掛けています。
例えば音響制作では、それぞれの作品のテーマ性を示すオリジナル楽曲づくりのサポートから携わっており、作曲家さんに開催テーマを伝えることから、会場で流すための収録までを実施。さらに、ルミナリエの点灯・消灯の時を告げる鐘の音なども私たちが用意しています。これは、実際に教会まで鐘の音を録音しに行くほど、こだわりをもって制作しているんですよ。

山東さん:神戸ルミナリエは、2024年1月開催の第29回より、東遊園地、旧外国人居留地、メリケンパークの3カ所での分散開催となりました。それぞれのエリアの環境や、展開される作品のテーマに応じた音の演出が求められるようになってきています。
私たちは、会期前にエリアを巡ってそれぞれの場所の図面を引き、「どこにスピーカーやイントレ(足場)を置くべきか」、「適切な音響・音圧はどのくらいか」、「石畳や芝生など、音の反響が異なる環境ではどの角度にスピーカーを設置するか」などの項目をシミュレーションしていきます。また、会期中はそれぞれの会場の天幕に音響スタッフが常駐し、人の入り具合を確認しながら、細かな音の調整を行なっています。

※音が流れます。音量にご注意ください。


音響のプロがおすすめする、光と音が織りなす祈りの空間

川口さん:音響設計や空間づくりには本当に力を入れています。スピーカーを置く場所一つをとっても茂みのあるところやライトアップされる作品の影のような目につかないところを探しながら、工夫を凝らして音の空間を作っているんですよ。
こうした努力が実を結んで、作曲家さんが奏でる音とイルミネーションの作品が調和した空間が出来上がった時は、やはり嬉しくなりますね。
それに、私たちは収録時にも曲を聴いていますが、会場で聴く音はまた別物です。
石畳を敷き詰めたメリケンパークでは音の反響が強く、石造りの教会に身を置いているような気分になれますし、芝生の多い東遊園地では 柔らかな音で、心静かに祈りを捧げているような気分になれるんです。今回のルミナリエでは来場された皆さんに、光と音が調和する体験を味わってほしいですね。

山東さん:私は、会場の音をつくり、設計する時に、「ルミナリエは作品がメイン」ということを常に意識しています。川口さんのいう調和というのは本当に大事だと思います。その一方で、私は「音を意識しないでイルミネーションを楽しんでもらう」というのも良いとも考えています。会場に流れる音は、周囲の雑踏やノイズを隠す役割も持っています。エリアを満たす曲が、控えめで、心地よい音であれば、目の前の美しい作品と光の演出に見惚れることができるはずです。
それとは別に、私が“面白いな”と思う瞬間があります。 それは、ライトアップの消灯のタイミングです。
消灯前には、だんだんと会場の音がフェードアウトしていき、消灯を告げる鐘の音が流れるまでに、わずかな無音の時間が訪れます。その時に、灯りはまだ美しく点いているのに、なぜか寂しさが訪れて、自分の耳に周囲の雑踏が入ってくるんです。そうすると、会場が急にざわめき出して、日常感が戻ってくる。「音があること」の意味を感じることができる、ちょっと変わった体験ですね。

神戸の大切な催しを、共に作り上げるパートナーとして

神戸ルミナリエを陰ながら支えるジーベック。
彼らの取り組みを、ルミナリエを主催する神戸ルミナリエ組織委員会はどのように評価しているのでしょうか。一般財団法人 神戸観光局 観光部の本田さんにもお話を伺いました。

本田さん:ルミナリエでの音響の大切さは毎年感じていますし、TOAさんやジーベックさんがこだわっているのと同様に、私たちも音へのこだわりを持って取り組んでいます。
嬉しいことに、ルミナリエは来場者様からも毎年好評をいただいています。
毎年会場で流される曲を収録したCDを集めるファンの方もいらっしゃいますから、作品がもつ光の演出だけでなく、音響が呼ぶ感動も多くの方が体験しているのではないでしょうか。
私も会場に出向いて作品の前に立つといつも感じるのですが、ルミナリエでは会場のどこにいても同じように音が聴こえてくるんです。スピーカーの前だから音が大きいとか、遠いと聴こえづらいということがないんです。会場を訪れる来場者様を等しく心地よい音と光の空間で包み込むという、私たちが考える音へのこだわり をジーベックさんは実現してくれていると感じます。

ジーベックさんは長年協力いただいていますし、開催前には私たちのスタッフも一緒に話し合い、時に現場に出かけて協力し合う関係ができています。本当に神戸ルミナリエを創り上げていくためのチームの一員として信頼していますよ。これまでと同様、今回も、これからも開催が続く限り共に、ルミナリエを盛り上げていきたいですね。


鎮魂と復興の祈りを未来へ繋いでいく、光と音

本田さん:ルミナリエは、阪神淡路大震災の記憶を継承し、鎮魂と復興への祈りのために行われているイベントです。これからも、その想いは変わることはありません。
毎年、会場では作品の前でそっと目を閉じ、手を合わせて祈る方が数多くいらっしゃいます。そういった敬虔な気持ちを呼び起こす会場の雰囲気づくりにおいて、音の演出は重要な要素となっています。
ルミナリエが、震災の記憶を胸にそっと祈る方の大切な場所であり続けるために、光の作品だけでなく、作曲家さんが手掛け、ジーベックさんが設計する美しい音と共にこの催しを続けていきたいと思っています。


ゆったりと、光と音の空間に浸れる今年のルミナリエへ出かけませんか?


神戸の冬を彩る、神戸ルミナリエ。
前回から会場を分散しての開催となり、来場者様のお好きな会場から巡ることができるようになっただけでなく、 混雑も緩和されてゆったりと作品を眺められるようになりました。また2024年の12月からは北野の異人館周辺で、一足早くルミナリエの小作品が公開されています。こうした可愛らしい作品や満天の星のように輝くガレリアを見上げながら、イルミネーションを静かに眺めるのも感動的なものですが、次回は少し耳を澄ましてみませんか?
これまでのルミナリエとはひと味違う、光と音が作り出す安らかな空間に浸ることができるかもしれません。