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知ってましたか?命を守る非常用放送設備のハナシ

もし、大型の商業施設や公共施設で火事や地震に遭ってしまったら…みなさんは、冷静に自分のとるべき行動がとれるでしょうか?
こうしたもしもの事態で、命を守る道しるべになるのが、火災発生をシグナル音と音声メッセージで伝える”非常用放送設備”。でもいざという時にどのタイミングで避難を開始したらいいのか、確実に避難誘導するためにどのように操作したらいいのか、わからないという方もいるかもしれませんね。
今回のオトノハナシでは、TOAで非常用放送設備の開発プロジェクトに携わる西尾さん、向井さん、矢原さんにお話をうかがい、避難する方と設備を操作する方それぞれの立場で必要な基本的な知識についてご紹介します。そして非常用といいながらも日常で使える方法まで、語っていただきました!


非常用放送設備ってどんなもの?どうやって使うの?

西尾さん「火事や地震が起こった際にその状況を伝える放送設備は一般的に“非常用放送設備”と呼ばれています。これは建物の用途や収容人数に応じて消防法で設置が定められており、オフィスビルや商業施設、学校、ホテルといった、皆さんにとって身近な建物に取り付けられているんですよ。」

矢原さん「非常時には即座に避難を促さないといけないイメージが強いのではないかと思いますが、実はそうではなく、落ち着いて確実に避難誘導するために段階的な放送がされるよう設計されているんですよ。
非常用放送設備は、自動火災報知設備から火災発生の信号を受け取ると、自動的に“ファンフォン、ファンフォン、ファンフォン”というシグナル音を鳴らします。その後、女性の声で“火災感知器が煙や熱を感知したこと”を知らせる音声メッセージが流れます。これを“感知器発報放送”といいます。このシグナル音と音声メッセージを聞いたら、まずは火事の可能性があると認識して、いつでも避難できるように心構えや準備をしておきましょう。
また、防災センターの担当者さんや自衛消防隊の皆さんは、感知器がなぜ作動したのかすぐに状況確認を行ってください。

シグナル音:ファンフォンファンフォンファンフォン
※大きな音が流れますので、音量にご注意ください。

シグナル音:フィーフィーフィー
※大きな音が流れますので、音量にご注意ください。

実際に火災の発生現場を確認した防災センターの担当者さんが非常用放送設備を操作するか、操作されないまま一定の時間が経過した場合は、“ファンフォン、ファンフォン、ファンフォン”というシグナル音のあと、男性の声で火災の発生と避難を促すアナウンスが行われます。さらにその後、“フィー、フィー、フィー”という大音量のシグナル音が鳴ります。これを“火災放送”といいます。
このシグナル音と音声メッセージを聞いたら、施設の利用者さんは即座に避難、また施設の防災センターの担当者さんや自衛消防隊員の皆さんは避難誘導を開始してください。

非常用放送設備の動作フロー

非常放送が起動しても、火災でなかったことが確認できたり誤発報であった場合には、設備の“非火災スイッチ”を操作すると、女性の声で”火災ではなかったこと”が伝えられるようになっています。また、備え付けのマイクを使用することで、自動音声では伝えられないより細かな状況の伝達や避難誘導を行うことができますよ。」

向井さん「シグナル音と音声メッセージは、必ず2回繰り返して放送されるようになっています。“聞き逃した!”と思っても、まずは落ち着いて2回目の放送をしっかりと聞いてくださいね。」


非常用放送設備が生まれたわけ

西尾さん「実は現在の非常用放送設備は、いくつもの悲しい火災事故がきっかけで誕生しました。非常用放送設備が誕生する前、業務放送ができる設備はあったそうですが、その当時に火災が発生したことを知らせる設備は、手回し式のサイレンや、非常ベルのみでした。例えば、ホテルや旅館などで火災が発生すると、建物内の配線が焼けてショートすることで停電が発生します。業務用の放送設備にはバッテリーがないため、停電してしまうとマイク放送ができなくなり、非常ベルだけでは何が起こったのかが上手く伝わらず、大きな被害が出ていたそうです。」

向井さん「1960年代後半は、ホテルや旅館での火災が多発し、多くの犠牲者が出てしまいました。特に 1968年に兵庫県の温泉旅館で起こった大規模な火災事故は特に被害が大きいものでした。そこで、その翌年の1969年に消防法施行令が改正され、非常警報設備に“放送設備”という新たな区分が生まれました。これが非常用放送設備の誕生です。当時、本社がある兵庫県で起きた火災事故にTOAの従業員たちも大きなショックを受け製品開発を急ぎ、法改正と同年の1969年に日本初となる非常用放送設備をリリースしたと聞いています。」

日本初となる非常用放送設備

いざという時に、非常用放送設備を適切に使うには?

矢原さん「このような教訓から生まれた非常用放送設備は、火災から多くの人々の命を守るために必要なものです。しかし、いざ火災が起こったときに設備が故障していたり、使えない状況では意味がありません。実際に2022年の全国での総出火件数は68,000件あまり。火災は他人事ではなく身近に起こりうるものとして、普段から避難訓練や設備のメンテナンスを通して、安全確保に取り組んでいただきたいですね。」

西尾さん「大規模な施設では、非常用放送設備は、地下の防災センターなどの防火・浸水対策が徹底された場所に設置されています。なおかつ、たとえ火災によって建物の主電源が使用できなくなっても、自動的に非常用のバッテリーに切り替わって駆動されるため、停電時でも放送を継続することができます。火災発生時のあらゆる状況を考えて設計・設置されているんですよ。」

向井さん「ただし、それは設備が正しく点検されている場合です。消防法では、非常用放送設備について、6カ月に一回の機器点検と年に一回の総合点検が義務付けられているほか、内蔵されているバッテリーなどの消耗部品も耐用年数があります。“コストがかかるから”“普段使っていないから大丈夫だろう”と思ってしまいがちですが、こうした点検やメンテナンスをしっかり行っていただくことが人々の命を守ることに繋がるのです。」

日常使いもできる?!設備を使いこなしつつ非常時にも備える意外な方法

西尾さん「もしものときに設備を正しく使えるようにしておくためには、日常的に使用することをオススメします。非常用放送設備は業務放送機能も搭載しているため、多くの施設で平時も活用されています。例えば、“店内のアナウンス放送”や“BGM放送”などがそうですね。つまり、スーパーのテーマソングも迷子のお知らせも社員の呼び出しも美術館の開館アナウンスも、非常用放送設備が担っていることがあるんです。そう思うと、ちょっと身近なものに思えてきませんか?通常の館内放送であれば、普段の施設管理業務やサービス向上のための手段として取り入れやすいですし、定期的に使用していると扱いにも慣れます。そして、非常時には非常放送が優先して放送されるので、それまで流れていた館内放送は止まる仕組みになっています。日頃から使っていれば、もし設備に問題があってエラーメッセージが表示されていてもすぐに気づけますよね。」

向井さん「使い方のコツとしては、非常時の操作に必要なポイントや、“ゆっくりと二度繰り返して話す”、“短く具体的に避難経路を伝える”など、非常時にマイクでアナウンスする際の要点を簡潔にまとめて設備の周辺に貼っておくといった工夫をするのもよいですね。大切な命を守るだけでなく、普段から便利に使える非常用放送設備。まずは怖がらずに、普段の放送業務に取り入れるところからはじめていただければと思います。」


〜もっと安全・安心な未来を目指して〜 開発者の思い

矢原さん「最近は大規模な複合施設の建設も増えてきました。複合施設やホールなどの防災センターに行くと、壁一面いろんな設備が並び、そのほんの一角に非常用放送設備が置かれていて、現場の人が操作に苦労している、という光景も見かけます。全ての機器を、とはいかないまでももう少しシームレスに設備同士を連携して、総合防災に繋げられないかとは私も日頃から感じていますね。」

向井さん「現在は建物のありようも多様化していますから、大規模な建物では幅広い用途で不特定多数の方が利用されたり、外国人の方が施設を利用する機会も増えてきました。こうした流れから2018年に消防庁から4カ国語対応に向けた通知による基準ができ、非常放送の多言語化が可能になりました。TOAでも対応を進めており、現在販売している最新のシリーズは、すべて4カ国語に対応しています。ただ、“不特定多数の方が利用する”という面ではまだ課題も多いですね。施設内の経路をよく知る方だけではなく、初めてその施設を利用し建物の構造を知らない方でも安全に避難できる方法を放送設備で叶えられないか考えています。」

西尾さん「いま私たちのチームが考えているのは、放送設備と他の設備との連動です。例えば非常放送と、デジタルサイネージなどを連携すれば、視覚情報でも誘導ができるようになりますから、耳の不自由な方や日本語を聴き取れない方でも理解しやすくなるでしょう。また、スマートデバイスでエリアごとの状況や要避難者の人数を映像情報から確認することができるようになれば、車いすやご高齢の方といった避難時にサポートを必要とする方に対しても状況に応じた素早い対応が可能になるのではないでしょうか。他の設備への連携や新機能も考えていますので、早く実用化していきたいです。
TOAだけでなく他の情報伝達機器を扱うメーカーや開発者の皆さんと連携しながら、避難する人にも、避難を誘導する人にも配慮した非常時の情報伝達の在り方をこれからも模索していきたいですね。」

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