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反響と残響 〜環境を見直せばスピーチが変わる⁉〜

入学式や入社式などのセレモニー、研修や講演会などの機会が多いこの季節。でも、こうした広い会場でのスピーチの際に「どうにも自分の声が届いていない気がする」「声がくぐもって聴こえにくい」と感じたことはありませんか?
実はスピーチの声の届きやすさや聴き取りやすさは、会場そのものの条件が大きく影響するんです。キーワードとなるのは「反響」と「残響」。スピーチをされる際には、本記事でお伝えするこの2つを意識してみてくださいね。

そもそも音の「反響」と「残響」とは?

普段、私たちが話したり、その声をスピーカーで拡声した時に、音源から直接耳に届く音を直接音といいます。これに対して、音が硬い床や壁・天井に反射して耳に届くのを反射音といって、直接音と反射音を区別して聴き分けることができる現象を「反響」、音が何度も反射して直接音との区別がつかなくなってしまう現象を「残響」といいます。

この2つについてわかりやすく例えると、声が山に当たって跳ね返ってくる“やまびこ”は反響、お風呂で歌を歌う時にボワーンと浴室内に声が響くのが残響です。直接音や適度な反射音であれば声や音が明瞭に聴こえ、その言葉の意味も理解しやすいのですが、反射回数が多くなると音が重なってぼやけてしまい、言葉の意味も理解しにくくなります。


体育館は残響が残りやすい!?声が伝わりやすい場所の条件

残響が起こりやすい場所の条件としては、床や壁がコンクリートや硬質な木材で作られた狭い場所や天井が高い場所などが挙げられます。

ただし、こうした場所であっても、床に絨毯が敷いてあったり壁に厚いカーテンや有孔ボード、グラスウールなどの吸音材が使用されている場合は、残響を抑えることができます。
天井高がそれほど高くなく、また床や壁にこうした音を吸収・遮蔽する配慮がなされている場所ではスピーチの音声が明瞭な音として聴き手に届きやすくなります。

また、少し専門的な話になりますが、スピーチなどで使用される空間には“残響時間”が測定されている場合があります。これは音が止まってから、その音圧が60dB下がるまでの時間を指し、長いほど残響が残りやすいといえるのです。音圧が60dB下がるまで、というと例えば、電車通過中の高架下(約100dB)の音が図書館内(40dB)と同じ静けさになるくらいになるまで。そして「残響」には悪い面だけでなく優れた面もあり、クラシックやオペラなどのコンサート会場では、残響が音を増幅させて豊かな響きに変えてくれるため、こうした会場は残響がある程度長く残るように設計されています。その一方で、講演やスピーチの場合は残響が少ない方が声がはっきりと聴き取りやすく、その推奨値は0.5〜1.3秒程度と言われています。

私たちが気軽にスピーチをする場所の残響時間を調べるというのは難しいのですが、簡易的に会場の残響を知る方法としては、会場の真ん中に立って手を一度“パンッ”と打ち鳴らしてみるのが良い方法です。その音が、すぐに消えるようであれば残響の少ない空間、何度も繰り返し聴こえるようであれば残響の多い空間です。


TOAが伝わりやすい音環境を作るなら?

会場の音環境が重要ということはわかりましたが、すでに会場が決まっていて、よりスピーチを聴きやすくするためにできることはないのでしょうか。

TOAが音づくりを担う会場では、音源ごとに個別で調整することで対処をしています。例えば、女性と男性では声の高さが違い、声が低いほど残響は残りやすくなりますので、イコライザーなどでローカットをかけて低い音を削るといった対処をします。

またイベントの目的によっても調整を変えていて、会場アナウンスや司会であれば残響が残りにくいように、反対に音楽ライブのボーカルの場合は、会場の残響をあえて利用したり、電気的に付加したりする(リバーブをかける)手法を使います。さらに、マイクを持つ方の年齢や喋り方によって、専門のスタッフがその場で調整を行います。

このほかにも会場全体の音の響きを事前に調査したうえで、残響が残りやすい特定の周波数だけをカットしたり、音の届きにくい場所用のサブのスピーカーを設置したり指向性の高いラインアレイスピーカーを配置するということもあります。


専門知識不要!明日から実践できるスピーチが伝わりやすくなるコツ

音響のプロに会場の音の設計をお願いするのが良いというのはわかりますが、「それは少しハードルが高い」と感じた方!自分で実践できることもあるんです!

■マイクの使い方で解決!

一番効果的なのはマイクの使い方。以前、オトノハナシでも取り上げた発声と音のプロ直伝!相手に伝わる話し方のように、マイクを使うときはグリル(マイクの頭)から口を拳ひとつ分離して発声するとベストです。この時、姿勢はまっすぐにし、声の出る直線上にマイクを持つように意識して話すことで、伝わりやすさは大きく向上します。スピーチされる方に事前に話す際の姿勢についてお話ししておいても良いかもしれませんね。

■高校球児に学ぶ?話すスピードで解決

さらに話すスピードも大切なポイント。残響の多い空間において早口で切れ目なく話してしまうと、残響が重なり合って、声が聴き取りづらくなります。
よく、高校球児などが言葉を区切りながら選手宣誓をしていますが、これはもともと残響が消えてから声を出すという意図によるもの。ゆっくりと文章を区切ってスピーチを進めるように意識するだけでも、言葉の意味がはっきりと伝わるようになります。

■一番声の低い方を基準に!

もうひとつは、事前に会場の音響機器の調整をしておくこと。ローカットが可能なイコライザーを標準装備した機器もありますので、こうしたものを使い、講演者や会場スタッフの中で“一番声の低い方”にテスト発声をしてもらって調整してみましょう。

■持ち運べるスピーカーがあればベスト

会場にサブのスピーカーがあったり、お手持ちの可搬型スピーカーがある場合はこれを活用するのも良い方法です。まずは会場でリハーサルを行い、会場内で声が聴き取りづらいポイントを探ってみましょう。そのポイントにダイレクトに音が届くようにサブのスピーカーを追加で配置すると、音の隙間を補うことができますよ。

スピーチで想いを伝えるために、まずはできることから。

プロの技術が必要なものから、すぐに実践できるものまでスピーチが聴き取りやすくなるコツはたくさんあるんです。
聴き手の心に残るスピーチのために、まずは音の特性を知って、できることから試してみませんか?


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